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東京地方裁判所 平成元年(ワ)9134号 判決

原告

竹内信子

右訴訟代理人弁護士

佐藤勉

被告

吉川とも

右訴訟代理人弁護士

猪瀬敏明

主文

一  原告が被告に賃貸している別紙物件目録記載の土地の賃料は、

1  昭和六二年六月一日以降一か月金一万八九九六円

2  平成元年六月一日以降一か月金二万〇四七二円

であることを確認する。

二  被告は、原告に対し、金一六万一三五六円及び次のとおりの各月額金員に対しそれぞれ当該月の翌月一日から支払済みに至るまで年一割の割合による金員を支払え。

1  昭和六二年六月から平成元年五月まで各月額金三八四四円

2  平成元年六月から平成二年一一月まで各月額金三七七二円

3  平成二年一二月から平成三年六月まで各月額金一七二円

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告に賃貸している別紙物件目録記載の土地の賃料は、

(1) 昭和六二年六月一日以降一か月金二万七〇〇〇円

(2) 平成元年六月一日以降一か月金三万円

であることを確認する。

2  被告は、原告に対し

(1) 昭和六二年六月一日から平成元年五月三一日まで月額金一万一八四八円の割合による金員

(2) 平成元年六月一日から平成二年一一月三〇日まで月額金一万三三〇〇円の割合による金員

(3) 平成二年一二月一日から平成三年六月三〇日まで月額金九七〇〇円の割合による金員

(4) 右(1)、(2)、(3)項の各月額金員に対し、当該月の翌月一日から支払済みまで年一割の割合による金員

を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項についての仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の亡父竹内愛助は昭和三一年に被告の亡夫吉川助治に別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を賃貸したが、その後昭和六一年一二月二日に愛助死亡及び昭和六〇年一月一三日助治死亡により、原告が賃貸人の地位を、被告が賃借人の地位をそれぞれ相続承継した。

2  本件土地の賃料は、昭和五二年一月一日以降月額八七〇〇円、昭和五九年七月一日以降一万五一五二円となっていた。

3  その後、本件土地の賃料は地価の高騰等経済事情の変動により不相当となったので、原告は、被告に対し、本件土地の賃料を、昭和六二年五月二二日昭和六二年六月以降一か月二万七〇〇〇円に、平成元年五月二七日平成元年六月以降一か月三万円に、それぞれ増額する旨の意思表示をした。

4  被告は、第一回目の賃料増額を拒否し、従前の賃料の支払をしていたが、第二回の賃料増額については月額一万六七〇〇円と主張して以後その金額を支払い、次いで平成二年一二月一日から月額二万〇三〇〇円の支払をしている。

5  よって、原告は、被告に対し、本件土地の月額賃料につき、昭和六二年六月以降一か月金二万七〇〇〇円、平成元年六月以降一か月金三万円であることの確認と、この額と被告が原告に支払っている金額との差額及びこの差額につき借地法所定の年一割の割合による利息の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3中、原告が主張の日に主張内容の意思表示をしたことは認めるが、その余は争う。

4  同4は認める。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1、2、4の各事実及び3の事実中、原告が主張の日に主張内容の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。

二そこで、本件土地の相当賃料額について判断する。

1  〈書証番号略〉並びに鑑定結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件土地は、京浜急行電鉄雑色駅から直線距離で二〇〇メートル、徒歩約三分の位置にあり、雑色商店街から西側に入って約四〇メートルに位置し、周辺は、事務所、アパート、マンション、住宅等が混在する住居地域である。

本件土地は、東西側約7.3メートル、南北側約13.5メートルの南西角地の土地であり、南側で幅員約五メートルの、西側で幅員約4.5メートルの舗装道路に面する。

そして、本件土地の上には、被告所有の木造瓦葺二階建・居住兼店舗(延面積106.01平方メートル)が建っている。

(二)  本件土地全体(601.65平方メートル)の固定資産税額及び都市計画税額の合計額は、昭和五九年度が六六万八〇二二円、昭和六〇年度が七三万四八四八円、昭和六二年度が七九万九七四〇円、昭和六三年度が七一万一八二四円、平成元年度が七一万七八九二円であった。

また、本件土地の南側道路に面する部分の路線価(いずれも一平方メートル当たり)は、昭和五九年が一六万円、昭和六二年が二七万円、平成元年が五二万円であり、本件土地西側道路に面する部分の路線価は、昭和五九年が一四万三〇〇〇円、昭和六二年が二四万五〇〇〇円、平成元年が四八万円であった。

本件土地の付近の商店街にある標準地である大田区仲六郷二丁目二八番三一号の公示価格及び路線価は、昭和五九年が六九万円及び三二万円、昭和六二年が一三六万円及び五六万円、平成元年が一五一万円及び九一万円であったし、本件土地と同じような立地条件で、駅からの距離が少し遠くなる基準地である同区仲六郷一丁目一九番八号の価格は、昭和五九年が三四万五〇〇〇円であったところ、昭和六二年が八六万円、平成元年が八三万円であった。

なお、昭和五九年に比較して、昭和六二年には4.3パーセントの、平成元年には8.3パーセントの消費者物価指数の増加があった。そして、この間の経済成長率は、昭和六二年が15.34パーセント、平成元年が30.95パーセントの増加であった。

(三)  ところで、本件土地の昭和五九年七月の賃料は、更地価額を一平方メートル当たり四三万五〇〇〇円であることを前提とし、利回り方式による試算賃料と、スライド方式による試算賃料との中間値が近隣の賃料とも、公租公課との均衡からも妥当と鑑定され、その中間値である一万五一五二円で和解が成立した。

(四)  本件土地の隣接地の原告所有借地についても、昭和六〇年六月以降賃料が坪当たり月額六〇〇円とされているほか、同じ仲六郷二丁目の住宅地域の賃料例が、昭和六二年改訂のもので坪当たり六一〇円程度であった。

なお、大田区内では、昭和六〇年一月から昭和六二年一二月末までの間に継続地代が約二八パーセント上昇している。

右事実が認められる。

2  右認定事実から明らかなように、昭和五九年に比較して、昭和六二年及び平成元年には、本件土地の近隣では土地の値段が急騰して、それに応じて、公示価格、東京都基準地価格、路線価が高騰していた。本件土地の更地価格は、基準地の基準価格や、標準地の公示価格及び路線価と本件土地の路線価との対比から、昭和五九年には、一平方メートル当たり四〇数万円であった本件土地の更地価格は、昭和六二年には九四万円を、平成元年には九二万円を下回ることはなかったものと推認される。

このように土地の価格が著しく高騰している時点には、その価格が適正な価格である場合であればともかく、一時的な不動産への集中的な投機の結果の場合であるときは、そのような価格を重視し、それを前提として正常な賃料額が定められるべきでないことはいうまでもない。

正常な賃料の算定の方法として、種々の方式が考えられているが、右事情の下では、利回り法や、差額配分法の結果を重視することは相当ではない(もちろん、これらの方法も、適切な利率を想定したり、適切な配分率を適用することによって妥当な結論を出せないことはないが、異常に高騰化した土地価格を前提とするものである以上、自ずから限界がある。)。

しかし、現実には、土地が高騰することに伴ない近隣の地代、あるいは固定資産税等も高騰していくことは見易い道理であり、現在の土地価格を無視することは許されない。

そこで、昭和五九年の賃料決定の根拠を参酌した上、その後の固定資産税等公租公課の変動(昭和六二年度は、昭和五九年度に比較して19.7パーセントアップとなっている。)、その後の公示価格及び路線価等の変化並びに推定される本件土地の更地価格の高騰(前記したように、昭和六二年のそれは、昭和五九年の倍以上)、消費者物価指数の変化及び経済成長率、近隣の賃料との比較(特に、その改定時期及び大田区内の地代の上昇率を斟酌する必要があるほか、本件土地の位置関係と、本件土地が角地にあることによる修正を考慮する必要がある。)等を総合すれば、本件土地の昭和六二年六月一日現在の相当賃料額は一平方メートル当たり月額一九三円(従前の約二五パーセントアップ。坪当たり約六三一円)、平成元年六月一日現在の相当賃料額は一平方メートル当たり月額二〇八円(昭和六二年の正常賃料の約八パーセントアップ。坪当たり六八六円強)と認めるのが相当である。

スライド法や、比準賃料による算出では右金額にはならないが、本件土地の更地価格の上昇をも考慮に入れると、右金額と認定することが相当である。

3  以上によれば、本件土地の相当賃料額は、昭和六二年六月一日以降一か月金一万八九九六円、平成元年六月一日以降一か月金二万〇四七二円であると認めるのが相当である。

4  そうすると、被告は、原告に対し、昭和六二年六月一日から平成元年五月末日まで毎月三八四四円の、平成元年六月一日から平成二年一一月末日まで毎月三七七二円の、平成二年一二月一日から平成三年六月末日まで毎月一七二円の、それぞれ未払賃料並びに各未払賃料につき支払期日の到来した後の当該月の翌月一日から支払済みに至るまで借地法所定年一割の利息の支払義務がある。

三よって、原告の請求は、昭和六二年六月から平成元年五月までの月額賃料が一万八九九六円、同年六月から月額賃料が二万〇四七二円であることの確認を求める限度で理由があり、また、右認定額と被告の既払額の差額である昭和六二年六月から平成元年五月までは毎月三八四四円、同年六月から平成二年一一月までは毎月三七七二円、同年一二月から平成三年六月までは毎月一七二円の各支払と、それぞれ右差額と各支払期日の到来した当該月の翌月一日から支払済みに至るまで、年一割の割合による利息の支払を求める限度で理由があるのでその限度でこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官田中康久)

別紙物件目録〈省略〉

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